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registration 日本におけるモダン・ムーブメントの建築
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神戸税関第20号上屋(現:神戸港新港第四突堤Q2上屋)
- 大蔵省営繕管財局神戸出張所営繕課
- 大阪橋本組
- 神戸港の新港第4突堤(1931年までは第1突堤と呼ばれた)の南東端に1932年に建てられた鉄筋コンクリート造の上屋である。「Q2上屋」という名称は、新港内の並び順でQ岸壁の第2番の上屋を意味する。竣工当時は第20号上屋と呼ばれた。この第4突堤は、1910年代から20年代にかけてメリケン波止場からさらに東側に「新港」が建設、整備されていく中で、1913年に日本で最初のケーソン工法で建設された突堤である。Q2上屋は、近代化による尖端的な技術によって建設された突堤に立地する、神戸港の歴史的、技術的な発展の契機となる施設である。 Q2上屋は鉄骨鉄筋コンクリート造で、18mの奥行に102mの長さを持つ。大部分は平屋建てで荷物置き場として使われ、その屋上は乗船用や送迎用のデッキとして使われた。海側では2階に、陸側では1階に、長さ約100mで、奥行き5mあまりのキャンチレバーの屋根が設けられ、海側では客船の乗船デッキの屋根、陸側では鉄道のプラットフォームの屋根として用いられた。このキャンチレバーの屋根の連続性によって、建物に強い水平性が与えられている。 建物の中央部には垂直性と水平性を強調し丸窓を備えたアール・デコ調のデザインをまとった3階建ての建物が建ち、1階に受付や事務室、貴重品置場、2階に待合室、喫茶室、貴賓室、3階に事務室や宿直室などが設けられた。1階の玄関の扉にはアール・デコ調のデザインが施されている。1階の受付窓口周りは布目タイルが貼られ、上階への階段の壁面には部分的に幾何学形態を用いたアール・デコ調の装飾が見られる。 竣工当時から国際旅客船の駅舎として使われてきたが、竣工当時から戦前期を通じて、鉄道省の鉄道駅の上屋としても機能しており、神戸港(こうべみなと)駅と名付けられた。戦前期を通じて、この駅から大阪駅を経由して京都駅や奈良駅まで運転する通称「ボート・トレイン」が、神戸港に到着した外国人らを大阪や京都、奈良まで運んだ。つまりこの建物は、船と鉄道のための駅舎として建てられたものである。 1930年代には、チャーリー・チャップリンやアルベルト・アインシュタインなど海外の著名人が来日し、この建物から出入国した。当時、神戸港はヨーロッパ航路の玄関口となっていた。また、25万人を数えるブラジルほか南米への移民がここから出国した。つまり日本の玄関口として、数多くの日本人や外国人が出入国する場所であった。航空旅客機が登場する以前の、主に戦前期のヨーロッパを中心とした旅客の拠点として機能した。日本の社会の近代化にとっても重要な施設である。 Q2上屋のような国際旅客船駅と鉄道駅を兼ねた駅舎は、主にアメリカ航路を担った横浜にも建てられたが、現存しない。福岡県の門司港には、主に中国航路を担った同様の建物が1929年にやはり大蔵省営繕管財局の設計によって竣工し、現存している。しかし主にヨーロッパ航路を担ったQ2上屋は、日本の貿易や近代化に大きく貢献した点で特筆される。その建物がほとんど当時の姿のまま現存していることは、極めて貴重である。日本の国際化や国際交流の歴史を語るものとしても、極めて重要ば建物である。
- 1932
- 兵庫