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registration 日本におけるモダン・ムーブメントの建築
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- 渡辺建築事務所(渡辺節)
- 竹中工務店
- 和歌山大学松下会館は、和歌山県出身で大阪を代表する世界的な企業、松下電器産業(現・パナソニック)の創業者の松下幸之助(1894-1989)が、当時の金額にして5900万円を寄附し、和歌山大学経済学部の学生のための施設として建設されたものである。1998年から和歌山大学生涯学習教育研究センター(後に、地域連携・生涯学習部門)として、また2018年から放送大学和歌山学習センターとして利用された。その後、解体の危機に瀕したが、日本建築学会近畿支部からの保存活用要望書の提出があり、和歌山県建築士会と和歌山ヘリテージネットワーク協会の主催によるシンポジウムが開催されるなどしたことで、和歌山大学が再検討し活用が決まった。2023年2月に生涯学習やリカレント教育の拠点として再整備が完了し、リニューアルオープンした。 建物は鉄筋コンクリート造による、いわゆるモダニズム建築の一つとして見ることができる。しかしながら、タイル張りや目地入りのモルタルの掻き落としによって組積造のように見せたり、線対称の構成を取ったり、和風のデザインを取り入れたり、いわば伝統的な様式建築の構成や細部の特徴を見せている。様式建築とモダニズムが融合したかのような、あるいは様式建築をモダニズムに「翻訳」したかのような、独自のデザインとなっている点が大きな特徴である。 設計は、戦前から戦後にかけて大阪を拠点に活躍し、優れた建築作品を多数遺した建築家渡辺節による。渡辺の戦前の作品はよく知られているが、戦後についてはこれまで等閑視されてきた。しかし戦後についても、戦前に近い態度で設計活動を継続し、建物の種別に応じてデザインを山小屋風にしたり、モダニズム風にしたりするなど、様式を使い分けている。 そんな渡辺の戦後の建築作品の中にあって、松下会館は、前述のようにモダニズムのデザインを基調としているが、同時代の典型的なモダニズム建築とは異なり、その構成や細部など、随所に様式建築的な特徴を備えている。すなわち松下会館は、渡辺の戦後の建築作品の特徴をよく体現しており、渡辺独自の建築作品となっていると言える。
- 1961
- 和歌山